「生徒会のヒメゴト」(みなづき忍) かすみ・あげは編

みなづき忍さんの作品には、いくつかの「お約束」がある。ミステリアスな雰囲気の電波キャラが登場する、登場キャラの名前を作品の題材で統一する、等々。この作品も例外ではなく、前者は萌子が、後者は生徒会メンバーの名字がそれに当てはまる(長谷部麗夢:会長、副山冴:副会長、計屋こがね:会計、記野萌子:書記)。

そして、嫌なキャラが登場しない。萌子のような電波キャラは時に人をからかって楽しむこともあるが、それは愛情の裏返しであり、友達を大切にする想いはむしろ他のキャラ以上に強い。誰かに嫉妬したり、理由もなく人を傷つけたりするキャラは1人もいない。だからこそ、作者の作品はどれも外れがなく、安心して読める。

この作品には、その「お約束」を破ったキャラが2人登場する。麗夢たちの同級生である下川かすみと、先代の生徒会副会長である王成あげはだ。4コマが多い作者としては珍しいストーリー漫画という形式、そしてかすみとあげはの存在が、この作品を作者の他の作品と一線を画すものにしている。

小さい頃から身体が弱く、高校では料理部に所属してお菓子作りに励むかすみは、おとなしい女の子という印象を見る人に与える。しかしそれらは全て、彼女の幼なじみである山上歩を振り向かせるための演技だ。歩が自分を待ってくれなくなるかも知れないから、今は身体が丈夫になったことを隠している。歩の好物だから、苦手な甘いお菓子を作るために料理部に所属している。また独占欲も強く、女の子好きの例に漏れず歩にも食指を動かす麗夢に対しては、敵対心をむき出しにする。料理部へ遊びに来た麗夢に、これを泡立ててほしいと水が入ったボールを渡すくらいは日常茶飯事である。

あげはのキャラは、更に危うい。先代会長の妃華がまだ2年生だった頃の話。下校時に突然雨に降られた妃華は置き傘を取りに戻る途中、男女関係のもつれで言い争いをする生徒たちを目撃する。そのうちの1人があげはだが、妃華は彼女でなく、もう1人の生徒の肩を持つ。修羅場の原因はあげはが5股をかけていたことなのだから、無理もない。誰かが自分を好きと言ってくれても、別の誰かに遊びに誘われたらその人についていく。自分を好きと言ってくれる人は皆大事にする。そう笑顔で話すあげはに、自分がその人たちを傷つけている意識は一切ないのだろう。これ以上関わらない方がいいと悟る妃華は、しかしその思いと裏腹に、魔性的な魅力を秘めたあげはに心惹かれていってしまう。

相手が1人だけか何人もいるかの違いこそあれ、かすみとあげはに共通するのは、極端に他者に依存している点だ。これもまた、マイペースで単独行動を好むキャラが多い作者の作品では珍しい。一方、かすみが終盤に歩に依存する自分を変えよう決意するのに対して、あげはのそうしたエピソードは最後まで描かれなかった。敢えて描かなかったのか、描く余裕がなかったのかは分からない。ただ、描けば好感度の上昇と引き換えに彼女の持つ神秘性が薄れてしまったかも知れないと考えると、描かなくて正解だったと思う。

嫌なキャラが登場しないという長所は時として、抑揚がないという短所にもなり得る。事実、私は以前からみなづき忍さんのファンを自称しているが、それは絵の可愛さや4コマのギャグの面白さが好みだったからで、ストーリーの構成力を評価してのものではなかった。だからこそ、この作品でかすみやあげはを見たときの衝撃は今でもはっきりと覚えている。ひと皮むけた作者の、今後の更なる活躍を期待しつつ。