『ヴェネツィアひよわ紀行』(橘紫夕) 感想

 

何かを変えたいあなたに…というか自分に

ひよわーるど』『となりのなにげさん』などの代表作を持つ4コママンガ家・橘紫夕さん。

ヴェネツィアひよわ紀行』は、海外旅行初体験の著者がヴェネツィアに6泊7日の旅行をするエッセイコミックである。

 

自分がこの作品を読んだのは、今年の4月。

今になってレビューを書く気になったのは、著者がヴェネツィアに行こうと思ったときの心境と、今の自分の心境が似ているのではないかと感じたからだ。

そのころの著者は「人生に疲れ」ており、「当時スランプだった」という。

マンガなので大げさに描いている可能性もあるが、ヴェネツィア旅行に現状を打破するきっかけを求めていたのは確かだろう。

 

かくいう自分も、詳しくは書かないがこのままではいけないと考えていて、できる範囲と色々と動き始めている。

去年は全く更新しなかったこのブログを、最低でも週に1回は更新するようにしたのもその一環だ。

一度も海外旅行に行ったことがなく、イタリア語も話せないのにヴェネツィアに行ってみる。

何かを変えるためにはそれくらいの思いきりも時には必要だと、この作品は伝えてくれているように思う。

 

ひよわーるど』のひよりそっくりな著者

突然ヴェネツィアに行くことを思いつき、さっそく著者はパンフレットをかき集める。

なぜヴェネツィアなのかは定かでないが、おそらく『ARIA』などのヴェネツィアを舞台にした漫画の影響と思われる。

しかし、ヴェネツィアは物価が高いため、イタリアを1周するツアーではどこも滞在期間が短い。

そこで、著者はツアーに申し込むのをやめ、個人で行くことを決意する。

 

海外旅行をした経験がなかった著者は、イタリア語はもちろん英語もほとんど話せなかったという。

なのに飛行機とホテルだけを予約し、友人の瀬戸さんと女性2人でイタリアに飛び立ってしまう行動力には感服する。

 

ただ、著者ならそれくらい突拍子もないことをしてもおかしくはないとも思った。

ひよわーるど』の主人公・守屋ひよりがまさにそんなキャラクターだからだ。

本来、作者の性格と漫画のキャラクターのそれは切り離して考えるべきだが、著者の実体験が元ネタになっている『ひよわーるど』は例外だろう。

 

体力がない割に行動力はある。ひ弱なので友達に助けてもらう場面も多いのに態度は大きい。自分勝手で団体行動が取れない。

これがひよりの性格で、つまり著者の性格でもある。

もちろん、著者を悪く言うつもりはない。

漫画家という特殊な職業に就いているのであれば、それくらい図々しくなければやっていけないのだろう。

 

どこまでもマイペースな著者

水の都ヴェネツィア。街中に水路が張り巡らされていて、500年以上前に建てられた建築物が今も残る、世界有数の観光地である。

漫画や小説の舞台として取り上げられることも多く、それらの作品ではヴェネツィアの美しい街並みが精密に描写されている。

 

そうした意味で、『ヴェネツィアひよわ紀行』は画期的な作品だ。

何せ、ヴェネツィアの魅力である風景がほとんど描かれていない。

写真撮影が禁止されていたカジノ――ヴェンドラミン・カレルジ宮を訪れる話では、某ジャンプ漫画のように真っ白な背景が続く。

繰り返すが、著者を責めているわけではない。

4コマ漫画家である著者は、シンプルで読みやすい絵柄が売りだ。描けないものは描かないと割り切る姿勢は、むしろ潔い。

 

著者のそうした気質は、ヴェネツィアの地元スーパーで買い物をしたエピソードにも表れている。

日本でもそうであるように、観光地の物価は高い。

同じミネラルウォーターでも、露店なら2.5ユーロするものが、スーパーでは0.6ユーロで売っていたという。

せっかく観光で来ているのだから、外国の露店での買い物を楽しむのも一つの選択肢だろう。

だが、純粋に値段だけを考えればスーパーで買う方が断然お得だ。

 

初めての海外旅行。しかも、大げさに言えば人生をかけた旅である。

それでも場の雰囲気に流されず、不要な出費は抑えようと常に考える。

良い意味で「空気を読まない」著者のマイペースぶりは、ぜひ見習いたい。