『広がる地図とホウキ星』1巻(描く調子) 感想

 

明るいファンタジー4コマ

私は、「明るいファンタジー4コマ」が好きだ。

 

まんがタイムきらら系列の雑誌で連載されている(されていた)ファンタジー4コマといえば、『棺担ぎのクロ。〜懐中旅話〜』が最も有名だろう。

きららのファンタジー4コマは、すべて「クロ」を参考にして描かれているといっても過言ではない。

 

しかし、だからなのか、きららのファンタジー4コマは全体的に暗い雰囲気の作品が多い。

もちろん「クロ」は名作だが、あまり暗すぎる話ばかりだと気分が滅入ってしまう。

うらら迷路帖』は比較的明るく、お気に入りの作品だが、それでも千矢の母親に関するエピソードなど不穏な空気を漂わせるシーンもある。

 

そうした意味で、『広がる地図とホウキ星』は私が待ち望んでいた作品だった。

主人公のリンは、のどかな田舎町で生まれ育った女の子。

両親は健在で、故郷には友達もたくさんいる。

少なくとも現時点では、彼女に哀しい過去が隠されているような描写は見当たらない。

 

「何も考えずに読める」は、「中身が薄い」という意味で使われることも多いが、この作品に対しては褒め言葉として使いたい。

主人公の出生の秘密とか、過去に起きた戦争とか、魔法使いに対する偏見とか、そういったものを一切考える必要がない。

一人前の魔法使いになりたいと願うリンが、その夢をひたむきに追いかける姿を、ただ見守るだけでいい。

この作品のようなファンタジー4コマを、もっと読みたいと思う。

 

大切なのは好奇心

リンは首都にある魔法学校「エウレベルク国立魔法学園」に入学するため、故郷の田舎町から電車に乗って旅立つ。

道中で氷魔法を操るゼルダ、入学後は雷魔法を操るヴェリに出会い、リンは彼女たちと力を合わせて「クエスト」と呼ばれる実技課題に挑戦していく。

 

作中でリンが成し遂げた業績は、目を見張るものがある。

故郷から魔法学校に向かうまでの間だけでも、300年間止まったままだった機械人(ロボット)を再起動させ、未踏遺跡への入場に成功している。

魔法学校の先生いわく、どちらかひとつだけでも卒業論文が書けるレベルだという。

 

しかし、リンは決して魔法使いとしての能力に恵まれているわけではない。

国立の魔法学校に合格するくらいだからそれなりの素質はあるのだろうが、彼女が使う魔法は母親に教わった基礎的なものだ。

 

リンの才能。それは、どんなことにでも首を突っ込む「好奇心」と、自分が使える範囲の魔法で何ができるかを考える「応用力」だ。

困っている人を見かけたとき、リンは決して見て見ぬふりをしない。

必ずその人に事情を聞いて、率先して問題を解決しようと行動する。

自分一人でどうにもできなければ、ゼルダとヴェリの力も借りる。あるいは、彼女たちと協力して合体魔法を生み出す。

 

機械人を動かしたエピソードの中にも、リンの応用力の高さが随所に描かれている。
 

ゼルダが使う、本来は電話の精霊に質問をするだけの「検索魔法」を、機械人を調べる用途にも使えるのではないかと思いつく。

それによって、壊れているのではなくエネルギーが切れているだけだと分かると、燃料切れの車などを動かす魔法を使って機械人を起こすことに成功する。

検索魔法も、車を動かす魔法も、おそらくそれほど難しい魔法ではない。作中の世界の魔法使いであれば、誰でも機械人を動かせただろう。

だが、誰も動かせなかった。機械人は壊れていると思い込んで、そんな魔法を使おうとすら考えなかった。

 

「やればできる」と「実際にやる」の間には、雲泥の差がある。

リンは考えるだけでなく、おそれずに最初の一歩を踏み出すことができる。

それは、高度な魔法が使えたり、万病に効く薬を調合できたりするよりも尊い才能だろう。

 

「動き」を感じさせる作画

リンの魅力について書いたが、この作品の中で私が一番好きなキャラクターは実のところヴェリだったりする。

好奇心旺盛なところはリンと似ているものの、なんだかんだで思慮深いリンと比べて、ヴェリは思いつきで行動するタイプだ。

しかし、その無鉄砲さが良い方向に働き、道を切り開くことも多い。

少々強引な性格でありながら、根は素直で嫌味なところがない。一挙手一投足を思わず目で追ってしまうキャラクターだ。

関西弁で話し、一人称が「ウチ」であることから、彼女のセリフを松岡由貴さんの声で脳内再生してしまうのは私だけだろうか?

 

このヴェリ、見た目にも特徴的な要素を持っている。

魔力を消費すると、リンはお腹が空き、ゼルダは眠くなる。ヴェリの場合もっと分かりやすく、髪の色と性格が変わるのだ。

文章で説明するのは少し難しいので、実際にどう変わるのかをコマを引用して紹介したい。

 


引用:『広がる地図とホウキ星』1巻86ページ ※左のキャラクターがヴェリ。

 

魔力がフルの状態。髪の色に比例して、性格も明るく、ときにケンカっぱやくもなる。

作中ではこの髪型で描かれることが多く、最も彼女らしい姿であるといえる。

 


引用:『広がる地図とホウキ星』1巻87ページ

 

魔法を使ったり、うっかり放電したりして魔力が空になった状態。

フルのときとは打って変わり、しおらしい性格になる。

 


引用:『広がる地図とホウキ星』1巻90ページ

引用:『広がる地図とホウキ星』1巻92ページ

 

魔力が回復していく途中の状態。

髪の色の薄さと、立っている前髪の本数―1本、2本―で回復の度合いが分かる。

 


引用:『広がる地図とホウキ星』1巻95ページ

 

魔力全回復。いわゆるバリ3(死語)。

 

作者の描く調子さんは、TwitterGIFアニメーションを数多く投稿している。

おそらく、動画を作るのが好きな人なのだろう。

しかし、言うまでもなく雑誌や単行本に載っているマンガのコマを直接動かすことはできない。

代わりに、ヴェリの魔力と髪を連動させることで、時間経過に伴う動きを表現したのではないかと思われる。

 

こうした遊び心は、読者にとってもありがたい。ストーリーを追うだけでなく、絵を見るだけでも楽しめるからだ。

願わくは、テレビアニメとしてリンたちが動くところも見てみたいが……。実現する可能性は充分にあるだろう。