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まんがタイムきららキャラットの読切『アカリ様』、続きが気になるってレベルじゃない

「まんがタイムきららキャラット」2018年1月号から3月号にかけて、異色のゲスト作品が掲載されました。

『ゆーあい』などの作品を発表されてきた、とこみちさんの『アカリ様』です。

どれくらい異色かって……、扉絵を見てもらえれば分かります(レビュー放棄)。

 

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引用:まんがタイムきららキャラット2018年1月号『アカリ様』第1話
柱コメントのフォントがもう怖い。

キャラットといえば、『ひだまりスケッチ』『Aチャンネル』『NEW GAME』など、きらら系の4コマ誌の中でも特に「女の子のかわいさ」を前面に出した作品が多い雑誌です。

そんなキラキラした雑誌のページを喜々としてめくっていたら、これですからね。

鬱蒼とした森にそびえ立つ、ツタが絡まり、今にも崩れ落ちそうな三角の鳥居。

ひと目見て、ほのぼの系の日常4コマではないと分かります。

普段このブログでは、単行本が発売された作品、またはされる予定の作品のレビュー記事を書くことが多いのですが、『アカリ様』は別。

ゲスト3話で終わらず、連載化してもらって続きを読みたいし、この作品がどれだけ異色かを伝えたい。その想いで筆を執ります。

三角の鳥居、小さな平安貴族

まずは第1話。猫を追いかけて森に迷い込んだ主人公・三島あかりは、そこで三角の鳥居を見つけます。

三角の鳥居は一般的に「三柱鳥居(みはしらとりい)」と呼ばれていて、数は少ないものの実在しているようです。

三柱鳥居 – Wikipedia

友人のえーこが言っているように、鳥居とは、神様と人の世界を区分けするためのもの。

だとすると、三角の鳥居の神域は、まさに鳥居の中ということになるでしょう。

オカルトに詳しいというえーこ。絶対に入るなよ、という彼女の忠告(フリ)を聞くまでもなく、あかりは鳥居の中に入ってしまいました。

そこからは、おかしなことのオンパレード。外へ出た途端に鳥居が崩れたり、あかりの影に平安貴族のようなシルエットが映ったり、夢の中に小さな平安貴族が現れたり。

この平安貴族(麻呂)の見た目も少し怖いのですが、それ以上に不気味なのが、あかりの無関心さ

どう考えても麻呂にとり憑かれている流れなのに、「たまたま」の一言で片付けようとしています。

元々そういう性格なのか、何かの伏線なのか……。

むしろえーこの方があかりを心配していて、放課後、お祓いをしてもらうために近所の神社を訪ねました。

この期に及んでも、お祓いしてえーこの気が済むならと、あかりはまるで他人事のよう。

しかし突然、彼女はとんでもない行動に出ます。

 

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引用:まんがタイムきららキャラット2018年1月号『アカリ様』第1話
もしアニメ化されたら、これなんて発音するんだろう……。

無言で道端の草を食べ始め、およそ「言葉」とは呼べない音を発する。よく見ると、目の焦点も合っていない。

しばらくすると元に戻ったものの、奇行に走っていたときの記憶はないようです。

こうなっては、さすがのあかりも自分が何かにとり憑かれていると認めざるを得ません。神社の住職(神主の間違い?)にお祓いしてもらい、家路につくのでした。

が、その帰り道でも、草じゃ足りないからコンビニに寄ろうと言う始末。別の意味で大丈夫なんでしょうか、この子。

 

遠ざけられる父親、無数の赤ちゃんの手

続いて第2話。いつものようにあかりは目を覚ましますが、食卓に父親の姿はありません。

母親いわく、急な出張で朝早くに家を出て、しばらく帰ってこれないとのこと。

まあ、日本でサラリーマンをやっていれば、そういうこともあるでしょう。あかりも「ふーん」と流します。

しかし学校に行ってみると、えーこや、クラスメイトたちの父親も今日から出張だと言います。

その数、クラスの30人中、なんと8人。異常事態というほど多くありませんが、偶然というほど少なくもない。

あかりが麻呂にとり憑かれたことと関係しているのか。女だけのハーレムを作るのが目的なのか。「父親」を遠ざけて、子どもを作れないようにするためか。

次々と仮説を述べていくえーこ。怖がっているように見えて、どこか楽しそうでもあります。やっぱり好きなんでしょうね、こういう話。

そんなこんなでふたりが下校しようとしていたとき、いきなり誰かがあかりの手を掴んできました。

その人、2年の戌亥先輩は「見える」体質の持ち主。痛い人と思われるのが関の山なので、普段は見えてもスルーしていたものの、あかりは無視できなかったと。

思い当たるフシはいくらでもある。戌亥先輩に、しっかりと見てもらうことになったのですが……。

 

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引用:まんがタイムきららキャラット2018年2月号『アカリ様』第2話
1コマ目で、あかりの指きれいだね…と思っていたらこれである。

浅黒い赤ちゃんの手がびっしり。戌亥先輩、思わず後ずさります。

このあと「姿まではとても見れなかった」と言いますが、「単に見えなかった」のか、「見る勇気が起きなかった」のか、どちらなんでしょうか。仮に見えたとしても見たくないと思いますが。

自分の手には負えないと悟った戌亥先輩は、神社の神職をしているという彼女のおばあちゃんに電話をかけます。

そこで判明したのは、三角の鳥居がある地域にかつて祀られていた、「アカリ様」という神様の名前だけ。これもまた、偶然と呼ぶにはできすぎでしょう。

いずれにせよ電話越しでは詳しく分からないということで、夏休みになるのを待って、あかりたちは戌亥先輩の実家に行く予定を立てるのでした。

 

「来年の今頃私ここにいない気がする」

そして、ゲスト最終話となる第3話。

私のように、『アカリ様』の空気感に魅せられたキャラット読者も発売日を心待ちにしていたでしょう。

ここで終わってしまうにせよ、連載化するにせよ、多くの謎が今回の話で明かされるはずなので。

夏休みに入り、電車とバスを乗り継いで2時間、あかりたちは戌亥先輩のおばあちゃんがいる神社にやって来ました。

しかし、なぜか鳥居の前で立ち止まるあかり。人見知りしているわけではなく、足が動かないそうです。

 

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引用:まんがタイムきららキャラット2018年3月号『アカリ様』第3話
こういう犬、人気アニメ『星色ガールドロップ』のOPにもいた気がする。

顔を上げると、大きくて白い犬が彼女を見つめていました。

先にも書いた通り、鳥居の向こうは神域。

穏やかな表情を見る限り、怒ってはいなさそうですが、「入ってくるな」と言われているのは間違いありません

あかりが境内に入れないため、場所を戌亥家に移しておばあちゃんから話を聞きます。

第1話に登場した住職は霊感を持っていませんでしたが、おばあちゃんは実際に憑きものを祓った経験もある本物。言葉にも説得力を感じます。

大きな犬は、おそらくこの地域の神様。その神様が鳥居をくぐるのすら許さないのであれば、「アカリ様」は祓えないということ。

とり憑かれた当初、あかりが急に草を食べ始めたのは、「アカリ様」が彼女を自分の土地のものにするためではないかということ。

戌亥先輩が見た無数の赤ちゃんの手からは、負の感情は感じない。「なにかが生まれようとしている」前触れではないかということ。

おばあちゃんの話に対しても、あかりはまるで興味がなさそう。

それどころか、「来年の今頃私ここにいない気がする」と、不穏なことを口にします。「ここ」とはもちろん、戌亥家という意味ではないでしょう。

蝉時雨の降りそそぐ中、「大丈夫だよね?」と心配するえーこと、「さあ?」とはぐらかすあかりの声が響く。

……え、終わり???

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『アカリ様』を「伝説の読切」で終わらせてはいけない

『アカリ様』をジャンル分けすると「ホラー」になると思いますが、一般的なホラーマンガとはだいぶ趣が異なります。

誰かが死んだり、血が出たりはしない。第1話の草を食べるシーンや、第2話の赤ちゃんの手を除けば、ビジュアル面もそこまで怖くはない。

第3話にいたっては、ほとんど田舎の家でおばあちゃんの話を聞いているだけでした。

作中に描かれている内容だけで判断するのでなく、「未来」を想像する。そのとき初めて、この作品はホラーになり得ます。

出張に行った父親たちは帰ってくるのか。「ここにいない気がする」というあかりの発言の意味は。それが「来年」である根拠は。

間違いなく、1年以内に何かが起きる。直接的ではないものの、夜中にふと考えると眠れなくなるような類の恐怖なのです。

しかし、もちろん一番怖いのは、この作品が連載化されないこと。

仮にゲスト3話だけで終わっても、「昔キャラットにやばいマンガが載っていた」と、「伝説の読切」として長く語り継がれるはずですが、そんな称号をもらっても作者は嬉しくないでしょう。

近いうちに、あかりたちの「その後」が見られることを願いつつ、私は雑誌のアンケートハガキを出すのでした。