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『がんくつ荘の不夜城さん』感想 萌え4コマ漫画家の生態を描いた萌え4コマ

「きらら系の4コマ誌で連載されている漫画家マンガで」

(『こみっくがーるず』かな?)

「3月27日に単行本が発売予定」

(『こみっくがーるず』かな?)

「主人公も4コマ漫画家で、極度の人見知り」

(『こみっくがーるず』かな?)

「扉絵をエロく描きすぎて担当さんに怒られたり、隣に住んでる女子高生に餌付けされたりしてる」

『がんくつ荘の不夜城さん』じゃねーか!」

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引用:『がんくつ荘の不夜城さん』第1話前編(きららベース)
おっさん漫画家の美少女化と言ってはいけない。

鴻巣覚(こうのす・さとり)さんが「まんがタイムきらら」で連載中の『がんくつ荘の不夜城さん』は、おそらく史上初の「萌え4コマ漫画家を主人公にした萌え4コマ」

単行本1巻が、3月27日に発売されます。

萌え4コマ漫画家は、みんな美少女に決まっている

不夜城よどみ(ふやじょう・よどみ)は、「きらり系」萌え4コマ誌のひとつ「まんがタイムきらりマジク」で連載を抱えている女性漫画家。

身長170cm・体重57kg・バスト97cmという圧倒的なプロポーションを誇りますが、職業と性格上ほとんど家に引きこもっているため、それを活かす機会はほとんどありません。

むしろ、引きこもりすぎて声の出し方を忘れる、あまりお風呂にも入らないため体臭が気になるなど、残念美人ぶりが際立ちます。

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引用:『がんくつ荘の不夜城さん』(「まんがタイムきららミラク」2017年10月号27ページ)
よどみのアシスタント(メシスタント)を務める、白仙あかり(はくせん・あかり)。彼女の愛は、性別も時空も超越する。

漫画家を主人公にしたマンガ――いわゆる「漫画家マンガ」は、根強い人気がありますよね。

きららレーベルだけでも、前述の『こみっくがーるず』が連載中。過去には、さらにメシ漫画の要素を加えた『〆切ごはん』も連載されていました。

その中でも『がんくつ荘の不夜城さん』が異彩を放っているのは、きらら系の萌え4コマ漫画家が主人公の作品をきらら系の萌え4コマ誌で連載しているという、徹底したメタ設定が盛り込まれているためです。

(『こみっくがーるず』のかおすもきらら4コマ作家ですが、本作ほどメタ要素は強くありません)

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引用:『がんくつ荘の不夜城さん』(「まんがタイムきらら」2018年1月号154ページ)
ミラク休刊後も連載が続いている、数少ない作品。編集部からの期待は高いはず。

よって、作中には、「系列誌が多すぎ」「ファンタジー4コマは売れない」など、きらら読者なら思わずうなずいてしまう「きららあるある」が豊富。

最初に連載されていた「まんがタイムきららミラク」が休刊し、姉妹誌の「まんがタイムきらら」に移籍したことも、ちゃっかりネタにしてしまいました。

ちなみに、作者の鴻巣覚さんは、自身のTwitterやpixivアカウントに、きららの他作品のファンアートを定期的に投稿されています。

一読者としても純粋にきらら作品を楽しまれている鴻巣覚さんだからこそ、この作品を生み出せたのではないでしょうか。

君は、「2巻乙」の哀しみを知っているか?

4コマ漫画は、とにかく単行本が出にくいジャンルだと言われています。

まず、連載時のページ数が少ないため、1冊ぶんのストックが溜まるのに時間がかかる。4ページ連載の作品なら、2年近くかかることも珍しくありません。

次に、出しても売れないと思われてしまっているのか、そもそも単行本が出ない可能性が高い。雑誌で長く連載されているにもかかわらず1冊も単行本が出ていない作品も、いくつも思い浮かびます。

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引用:引用:『がんくつ荘の不夜城さん』(「まんがタイムきららミラク」2017年10月号21ページ)
一般書店は、4コマコーナーをもっと大きくしてほしい。

その点、きらら系の萌え4コマは、比較的単行本が出やすい方だといえるでしょう。

1話あたりのページ数が原則8ページのため、13話あれば単行本を出せる。ミラク以降は、10ページ、12ページの作品も増えてきました。

途中で打ち切られてしまう場合も中にはありますが、基本的にはストックが溜まれば単行本を出してもらえます。

 

言いかえると、単行本の切れ目が連載の切れ目ということ。

特に、2巻の発売と同時に完結する作品が非常に多い。これをきらら読者は「2巻乙」と呼び、何よりも恐れています。

好きな作品が連載24話目(2巻のラスト3話目)あたりで急展開を迎えると、「あっ……」と察してしまうのです。

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引用:『がんくつ荘の不夜城さん』第1話前編(きららベース)
『ミソニノミコト』を2巻乙らせたきらら編集部を許すな。

鴻巣覚さんの前作『やさしい新説死霊術』も、2巻で完結しています。

とはいえ、作者のブログ記事を見る限り、2巻までしか出なくても納得のいく終わり方ができるよう、あらかじめプロットを練っていたとのこと。

きららで連載されている漫画家さんの多くは、おそらく似たような考えを持っているのではないでしょうか。

「2巻乙は残念だけど、きれいにまとまっていたなあ」と感じる作品が多いのは、決して気のせいではないのかもしれません。

 

もちろん、中途半端に終わってしまうよりはいいのですが、「2巻の壁」を意識するあまり、作品の自由度を狭めてしまっている気がしてなりません。

だらだら引き伸ばせばいいわけではない。しかし、長く続けるからこそ描ける世界もある。

作中でよどみが連載している『悠久なる聖女様の後日談』は、単行本が3巻まで発売されており、打ち切り常連だった彼女にとって一番のヒット作になっています。

『がんくつ荘の不夜城さん』も、2巻の壁なんて軽く飛び越え、3巻、4巻と末永く続いていってくれるはずです。