【レビュー】推しが尊すぎてしんどいのに語彙力がなさすぎてしんどい-腐女子の感情類語辞典-

こんにちは。「まっしろライター」のましろ(@mashirog)です。

最近、やたら「尊い」って言う人が増えましたよね。

2014年ごろからオタク界隈ではよく使われていたようですが、きらら系の作品の感想でも見かけるようになったのは、去年あたりからでしょうか。

『ゆるキャン△』で、リンとなでしこが夜景の写真を送り合うシーンで「尊い…」と言ったり。

『恋する小惑星(アステロイド)』で、みらを忘れないためにあおがくじらのマスコットを持っているシーンで「尊い…」と言ったり。

『どうして私が美術科に!?』2巻の宣伝広告にいたっては、「史上最尊」なんて造語を作り出す始末。さいとう? さいそん?

お前ら、「尊い」って言いたいだけだろ! 「尊い」の意味わかってるのか!

わからないので、以下の本で勉強することにしました(ここまで茶番)

 

この本、何?

TwitterのTLで見かけて気になり、Amazonで購入しました。

サブタイトルがなければ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』的なマンガかと思ってしまいそうですが、こちらはれっきとした(?)類語辞典です。

好きな作品やキャラクターへの想いをうまく伝えたいのに、語彙が少ないせいで「尊い」「しんどい」しか言えない。

そんな方のために、以下のような感情別の言い換え表現が約800語収録されています。

怒り/愛しい/癒し/ウキウキ/美しい・カッコいい/羨ましい/うれしい/面白い/がっかり/葛藤/悲しい/感謝/期待・希望・願い/興味/拒絶/嫌い・憎い/疑問/悔しい/軽蔑/決意/興奮/困る/怖い/混乱・困惑/幸せ/自信/祝福/好き/絶望/楽しい/辛い/同意/動揺/恥ずかしい/不安/不満/不愉快/褒める/満足/憂鬱/呼びかけ/(番外編)奇声

メインターゲットは、Twitterを利用している腐女子の方らしく、私がブログでマンガのレビューを書くときの参考にはならなそうです。

とはいえ、例文を読んでいるだけでもおもしろい。私がTwitterでフォローしている方に、腐女子(というか女性)の方はあまりいないはずなので。

本屋でどの棚に置かれているかは分かりません。少なくとも、辞書コーナーではないと思います。

 

あえて語彙を少なくするという発想

そもそも、類語辞典というのは、同じ言葉を繰り返し使わないために別の言い方を調べるためのものですよね。

私も、記事を書くときにWeblio類語辞典をよく利用しています。

しかし、この本が普通の類語辞典と違うのは、別の表現を探そうとすればするほど同じ言葉に辿り着いてしまう点。

 
 
タイトルにもなっている「しんどい」は、「怒り、愛しい、うれしい、悲しい、期待、悔しい、興奮、困る、混乱、幸せ、好き、絶望、辛い、恥ずかしい、不安、褒める、憂鬱」の類語として登場します。多すぎ。

ガチャで推しキャラのSSRが引けたときも「しんどい」し、好きなマンガの単行本が出ずに打ち切られたときも「しんどい」。

結局、どういう意味の「しんどい」なのかは、ツイートに張る画像や、前後の文章で補足する必要があります。

先日、『形容詞を使わない 大人の文章表現力』という本のレビューを書きましたが、この類語辞典はまさに正反対。

同じ言葉を使って違う感情を表現するというのも、それはそれで高度な文章力が必要なのかもしれません。

 

結局、「尊い」とは?

話を戻して「尊い」ですが、この本によると、以下のような感情を表すときに使うそうです。

「尊い」の類語
  • 愛しい:非常に希少性が高く、保護する必要性があるほど愛おしい
  • 美しい:とても希少で、大切に保護するべき価値があると感じさせる美しさ
  • 好き:希少だし大切にしないといけないと感じるような、キュンとくる要素を持っていること
  • 褒める:この希少さは大切にしないといけない……!と感じている

「しんどい」ほどではないにせよ、用例が多いですね。書いていること同じでは?というツッコミは野暮というもの。

いずれの意味にも共通して使われている言葉が、「希少」

なるほど確かに、『ゆるキャン△』のリンとなでしこ、「恋アス」のみらとあお、「どうびじゅ」の桃音と黄奈子、いずれのふたりもかけがえのない関係。生まれる前から出会いを約束されたソウルメイト。「俺も混ぜろよ」なんて言う奴がいたら俺がぶっ潰す(イキリ/これも「軽蔑」の類語として載ってる)

 
 
かつて、好きなキャラへの褒め言葉として「俺の嫁」という言葉が使われていた時代がありました。

すっかり死語になり、入れ替わるように「バブみ」が流行り出したため、今のオタクは軟弱になったという意見も聞きます。

私はむしろ、軟弱になったのではなく、オタクが大人になったからこそ、「俺の嫁」ではなく「尊い」や「バブみ」が使われるようになったのではないかという気がします。

「○○は俺の嫁」と、ひとりで推しを独占するような発言をすれば、争いが起きる。冗談半分でも、匿名とはいえ個人が特定できるTwitterでそんなことを言えば、TLがギスギスしてしまう。

独り占めするのではなく、みんなで慈しもう。そうした共通理解によって、自然と推しから一歩身を引いた感情表現――尊い――が生まれたのではないでしょうか。

 
 
もしこの辞典の第2版が作られるのであれば、「尊い」からの逆引きも用意してほしいと思います。