まっしろライター

フリーライター・ましろのブログ。マンガ(4コマ)のレビューや、日々思っていることなどを書いています。お仕事募集中。

『甘えたい日はそばにいて。』川井マコト アンドロイドが人間に恋する、いつか訪れる未来

人間とそっくりな見た目をしたアンドロイドが、人間とともに暮らす世界。

お手伝いアンドロイドのひなげしは、主人である高校生小説家・楓(かえで)に恋をしている。

しかし、彼女の想いは、実ることはおろか本人に伝えることすら許されない。

アンドロイドと人間の結婚は、法律で禁止されているからだ。


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引用:『甘えたい日はそばにいて。』第1話

アンドロイドといえど、ひなげしには理性も自制心もある。だからこそ思い悩む。


2015年には、『幸腹グラフィティ』がアニメ化もされた川井マコトさん。

その最新作、「まんがタイムきらら」で連載中の『甘えたい日はそばにいて。』の単行本第1巻が、12月27日に発売される。




アンドロイドと人間が共存する世界は、ユートピアか、それともディストピアか。

「ロボット」と「感情」。『鉄腕アトム』の例を出すまでもなく、多くのマンガ家が挑戦してきたテーマである。

ロボットの中でも、人間に限りなく近い外見を持つものを「アンドロイド」と呼ぶ。この作品に登場するひなげしたちは、そうした意味で究極のアンドロイドと言えるだろう。

見た目や表情はもちろん、おそらく内部の構造まで人間と瓜二つ。本人たちが打ち明けない限り、アンドロイドと見分けるのは難しい。


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引用:『甘えたい日はそばにいて。』第4話

アンドロイドたちは何もできない状態で生まれ、「養成所」で様々な教育を受ける。人間が学校へ行くのと同じように。


アンドロイドたちは、それぞれの得意分野を活かせる職業に就き、人間とほぼ変わらない待遇を受けて生活している。

唯一禁止されているのが、人間との結婚だ。


だったら、最初から感情を持たせなければいいのではないか、と思うかもしれない。しかし、もはや作中の世界は感情を持つアンドロイドなしでは成り立たない。

例えるなら、携帯電話やスマートフォンのようなもの。電磁波が人体に及ぼす悪影響が……と言われたところで、手放す人がどれだけいるだろうか。


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引用:『甘えたい日はそばにいて。』第5話

作中の風景は、今の日本とあまり変わらない。開発技術のすべてを「感情を持つアンドロイドを作ること」に集中させたためだ。感情を取り除くなんて、今さらできるはずがない。


雇い主に不満があれば、自由に勤務先を変えることもできる。アンドロイドたちの「人権」は尊重されており、決して奴隷のように扱われているわけではない。

ただ、人間との結婚ができないだけ。たったひとつの違いが、両者の間にある埋めようのない溝を物語っている。


アンドロイドとしては異常な、ひなげしの人間らしさ

恋をしているだけではない。ひなげしは、他にも様々な欠点を抱えている。

養成所時代の成績は、全科目でE判定。周囲に気を遣いすぎて、自分が本来しなければならないことがおろそかになる。楓の家で働くようになってからも、家事手伝いなのに料理や掃除に失敗することもしばしば。

科学技術の粋を集めて作られたにしては、どうにも出来が悪い。アンドロイド失格と言ってもいいだろう。


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引用:『甘えたい日はそばにいて。』第7話

ヒナゲシ(虞美人草)の花言葉は、「慰め」「いたわり」「おもいやり」、そして「恋の予感」。


……そう。ひなげしはアンドロイドらしくない。あまりにも人間らしすぎるのだ。

これといった取り柄はない。自己評価も低い。それでも笑顔を絶やさず、周りを思いやる。ただそこにいるだけで、安心感を与えてくれる。

そんな人、あなたの近くにもいないだろうか?


少し言葉を交わすだけで、誰もがひなげしを好きになる。楓に想いを寄せる幼馴染、あずきもそのひとりだ。

あずきにとって、ひなげしは言わば恋のライバル。しかし、彼女の恋心を知ってもなお、それが違法だと責めるどころか、彼女を処分から救う方法を探さずにはいられない。

いっそ、ひなげしが楓と駆け落ちを企てるような身勝手な性格だった方が、どれだけありがたかったろう。


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引用:『甘えたい日はそばにいて。』第5話

隠しごとができるほど器用でもない。朴念仁の楓当人を除き、ひなげしと関わりを持った人物は「全員」彼女の感情に気づいている。


1件の電話から急展開する物語は、単行本1巻の収録回までで一旦の決着を見せ、誌上ではすでに新章が始まっている。

ひなげしの恋は成就するのか。ひなげしの存在は、作中の歪な社会を変える鍵となり得るのか。

4コマとしては破格なページ数の多さ(1話あたり12~14ページ)、最後の1ページまで先が読めないストーリーなど、重厚で読み応えのある作品だ。