インタビュー

「明日、誰かに話したくなるようなマンガを」『六条さんのアトリビュート』セトユーキ先生インタビュー

『ひだまりスケッチ』『GA 芸術科アートデザインクラス』など、数多くの美術4コマを世に送り出してきた「まんがタイムきらら」。

その歴史に新たな1ページが加わりました。「まんがタイムきららMAX」で連載中の『六条さんのアトリビュート』です。

あらすじ:美大を目指すも、絵に「強みがない」と言われ落ち込む主人公・このみ。そんな時、引っ越し先で美術オタクの幽霊・六条さんと出会いー…?
美術史から画材、雑学まで六条さんが幅広く解説! ためになる美術漫画、待望の第1巻!

今回は単行本1巻の発売にあわせて、作者のセトユーキ先生にインタビューを実施。作中の六条さんに負けず劣らず博識なセト先生のパーソナリティに迫りました!

美術史の面白さを伝えたい

──『六条さんのアトリビュート』、きららMAXで毎月読んでいます。この作品を描くことになったきっかけはなんだったんでしょうか?

セト
セト
「六条さん」の前に、ゲストで『本とねことイタズラうさぎ』というマンガを描いていました。あの作品には西洋美術からの引用が結構あったのですが、作中で説明するのも無粋かなと思い、前の担当さんにだけ「実はこういう裏設定があって~」って話していたんです。

セト
セト
すると、「その美術ネタを前面に出してみてもいいんじゃないか」とアドバイスをいただいて。次の掲載用に「イタズラうさぎ」の続きと「六条さん」のプロトタイプ版を両方提出したところ、「六条さん」のほうが採用されたという形です。

──きららにおいて「美術もの」はメジャーなジャンルだと思いますが、他の作品との差別化は意識しましたか?

セト
セト
はい、『ひだまりスケッチ』や『どうして私が美術科に!?』など、きららの美術4コマは事前にひと通り目を通しました。絵の描き方や画材に関する話はあっても、美術史にまで踏み込んでいる作品は少なかったので、自分が今から攻めるならこの部分かなと。『GA』とは少し被っているかもしれませんが……。

──美術史には昔から興味があったんですか? 学生時代に専攻していたとか。

セト
セト
恥ずかしながら、むしろ学生のころは堅苦しくて苦手だなと思っていました。美術史をちゃんと勉強するようになったのは、学校を卒業してからですね。
セト
セト
もともと絵を観るのは好きでしたが、描かれているモチーフの意味とか、作品が生まれた時代背景とかを知ってから観るとより面白く感じられるようになったんです。そうした楽しさを「六条さん」を通して伝えられたらと考えています。

──特にお気に入りのエピソードはありますか?

セト
セト
12話の雨の話は調べていて面白かったです。昔の西洋画には雨の描写がほとんどないんですけど、逆に浮世絵には雨が多く描かれている。それだけ日本人は雨に親しみを感じていたんだろうなと。本当は1話あたり8ページなのに12ページ分も描いてしまって、泣く泣く4ページ削りました(笑)。

──『六条さんのアトリビュート』以外のタイトル案はありましたか?

セト
セト
最初は『六条さんのヴァニタス』というタイトルにする予定でした。死や衰退をテーマにした絵のことで、プロトタイプ版にも死後の世界を連想させる描写が多かったんです。けれどそういった要素は連載版では控えめになったので、別の言葉を探した結果「アトリビュート」になりました。

──辞書で調べてみたのですが、「アトリビュート」は西洋画に描かれている神様や人物を象徴するアイテムのことですよね。

セト
セト
語感的には「アトリエ」も候補でしたが、絵を描くのはあくまで主人公のこのみちゃんなのでちょっと違うかなと。生前の記憶がない、空っぽな存在である六条さんの「アトリビュート」を探す物語という意味も込められています。

主人公のこのみちゃんは最後にできた

──主人公のこのみちゃんの設定コンセプトについてお聞かせください。

セト
セト
このみちゃんの見た目や性格は、プロトタイプ版のころからほとんど変わっていません。順番として、真っ先に考えたのが六条さんで、次に隣人の双石(くらべいし)さんで、このみちゃんは最後。あの2人のキャラを立たせようとすると、主人公はできるだけ普通の女の子がいいなと。

──自分に個性・強みがないというこのみちゃんの悩みは、絵に限らず誰もが持っているものだと思います。

セト
セト
読者と同じ目線に立ってくれるキャラにしたかったんですよね。六条さんも双石さんもちょっと変な子なので、主人公まで変だとまとまりがなくなってしまう。感情移入しやすい、どこでもいそうな女の子にすることを意識しました。

──タイトルにもなっている通り、最初に考えたキャラクターは六条さんだったんですね。銀髪に赤い瞳という見た目もインパクトが強いです。

セト
セト
明らかに普通の人間とは違う怖さがありつつ、だけどどこか愛らしさもあるというコンセプトです。六条さんの外見はなかなか決まらずに苦労しましたね。

──今の髪型はショートですが、ロングの案もあったりしましたか?

セト
セト
いや、髪は全部ショートでした。ロングは描くのが大変なので……。3話で六条さんが「空腹で死ぬ」と言っているシーン、個人的に気に入っていてめちゃくちゃ描き込んだんですけど、もしロングにしていたら自分が死んでたと思います(笑)。

──主人公のこのみちゃんより先に双石さんが生まれたというのも意外でした。セト先生にとって思い入れがあるキャラクターなんでしょうか。

セト
セト
というより、双石さんは自分が昔描いていた別のマンガのキャラクターなんです。三段論法を駆使して喋るという今よりだいぶ変な子だったんですけど、その作品だけで終わらせるのはもったいないなと思って再登場してもらいました。

4コマの難しさは描いた人にしかわからない

──マンガを描くときに大切にしていることがあれば教えてください。

セト
セト
技術面でいうと、「質感のある絵」を描くことを心がけています。そうした部分がしっかりしていれば、たとえデフォルメされた絵であっても読者さんにリアリティを感じてもらえると思うので。

──たしかに、セト先生の絵は服のしわなどがすごく描き込まれている印象があります。技術面の他に、精神的な部分ではいかがでしょうか。

セト
セト
マンガはエンタメ作品である以上、読んでいて嫌な気持ちにならないように、大多数の倫理に反するようなことは描かないように注意しています。

──大多数の倫理……。具体的には?

セト
セト
例えば、不良が子犬をいじめていたとして、それだけだとただの胸糞悪いシーンですけど、別の誰かがその不良をやっつけて子犬を助けたらスカッとするじゃないですか。

──なるほど。

セト
セト
これは、何でもかんでもハッピーエンドにするという意味ではなくて。たとえバッドエンドでもそこに至るまでの過程をちゃんと描いて納得してもらう。頭の中ではもっと面倒くさいことを色々考えているんですけど、ざっくりいうとそんなところですね。

──マンガの中でも、「4コマ」を描く上で意識していることはございますか?

セト
セト
意識……というかむしろ苦労していることなんですけど、4コマのリズムを保った上でストーリーを進めるのがめちゃくちゃ難しい。そこを無視すると、ただの「コマが4つ並んでるマンガ」になってしまうので。

──過去にインタビューさせていただいた作家さんも、みなさん「4コマは難しい」と仰っていました。

セト
セト
本当に。この難しさは実際に描いてみないとわからないでしょうね(笑)。普通のコマ割りなら、重要なコマを大きく、そうでもないコマを小さく描くことでメリハリがつけられるんですけど、4コマだとそれができないわけで。レイアウトを工夫したり、視線誘導を意識してみたり、今も試行錯誤している最中です。

──すべてのコマが同じ大きさだからこそ、作者の力量が如実に表れるフォーマットなのかもしれません。

セト
セト
たぶん、俳句の奥深さに通じる部分があるんじゃないかなと。誰もが松尾芭蕉にはなれないように、自分も自分が読んで納得できるような4コマはまだ作れていないので、これからも精進していきます。

マンガを描き始めたのは19歳ごろ

──セト先生がマンガを描き始めたのはいつごろですか?

セト
セト
高校を卒業してからなので、19歳か20歳くらいだと思います。

──結構遅かったんですね。

セト
セト
イラスト自体は幼稚園のころから描いてたんですけど、マンガはなんとなく敬遠していましたね。だから将来もゲームのコンセプトアートとかを描く仕事がしたいと思っていて、マンガ家になるつもりは全然ありませんでした。

──なにかきっかけがあったんでしょうか。

セト
セト
ふと、「一度くらい同人誌を作ってみたいな」と思って、試しにマンガを描いてみたんです。そしたら想像していた以上に難しくて……。ある程度は絵が描けるほうだと思っていたから悔しくて、これは自分で納得できるものが描けるまでやめるわけにはいかないぞと。

──そうやってどんどんのめりこんでいったんですね。

セト
セト
きっかけは反発心からでしたが、何度も描いているうちにだんだんマンガを描く面白さがわかるようになっていきました。例えば映画だと、撮りたいシーンがあっても予算やキャストの都合で撮れないことがありますけど、自分ひとりで作品全体をコントロールできるのがマンガの魅力だと思います。

──きららには持ち込みでデビューされたんですか?

セト
セト
自分は地方に住んでいるので、持ち込みではなく投稿でしたね。何度か送ったものの結果が出ず、次ダメならきららは諦めようと思って最後に出したのが、はじめて雑誌に掲載された『ユーレイちゃんとミレイちゃん』です。

──見事にラストチャンスを掴んだわけですね。

セト
セト
投稿して半年くらい経ったころ、福岡の太宰府天満宮に行って「マンガ家になれますように」とお祈りした直後に掲載の連絡が来たんですよ。普段、幽霊や神様をそこまで信じているわけではないんですけど、天神様だけは絶対にいると思います(笑)。

『幸腹グラフィティ』はもはやバイブル

──子どものころどんなマンガを読んでいましたか?

セト
セト
小学生時代は、親戚の家にあった藤子不二雄先生の作品や『クレヨンしんちゃん』をよく読んでいました。自分のお小遣いではじめて買ったのは『まほらば』だったかと。

──それらのマンガがセト先生の作風の原点になっているんでしょうか。

セト
セト
おそらくなってるんじゃないかと思います。藤子先生のマンガだと特に『21エモン』が好きで、昔は純粋にギャグマンガとして読んでたんですけど、大人になってから読み返すとSFものとしてめちゃくちゃ完成度が高かったんだなって気づいたんです。子どもは子ども、大人は大人、それぞれの視点で楽しめるマンガを目指しています。

──セト先生のTwitterを拝見する限り、『幸腹グラフィティ』がかなりお好きなようで。

セト
セト
いやもう、『幸腹グラフィティ』は好きを通り越してもはやバイブルですよ(笑)。何回読んでも飽きないどころか、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目に読んだときのほうが面白くて、そのたびに新しい発見があるんです。

──具体的などんな部分でしょうか。

セト
セト
『幸腹グラフィティ』に限らず、川井マコト先生って”感情のプロセス”を描くのがすごくお上手なんですよ。キャラクターの性格や言動のすべてに説得力がある。自分のマンガを描いていて、キャラがうまく動いてくれないなと感じたときによく「幸腹」を読み返しています。

──マンガ家としての今後の目標があれば教えてください。

セト
セト
マンガの仕事だけで生活できるようになることでしょうか。今は別の仕事とかけもちしているんですけど、体力的にかなりしんどいので……。「六条さん」の単行本が100万部くらい売れたら「ごちうさ」のシャロの家みたいな小屋を建てて、そこでマンガを描いて暮らすのが夢です。

──その夢が叶うようこれからも応援させていただきます。最後に、読者のみなさんへのメッセージをお願いいたします。

セト
セト
きららMAXには他にも面白い作品がたくさんある中で、『六条さんのアトリビュート』を読んでくださっている方には感謝しかありません。本当にありがとうございます。

そして読んでいただける以上、その時間を無駄にさせないよう、読んだ次の日に誰かに話したくなるような雑学を交えながら描いていきたいと考えています。これからも応援よろしくお願いします。

──本日はありがとうございました!

作品情報

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