「ななかさんの印税生活入門」1巻(kashmir) 感想

 

これであなたも不労所得者に!…なれない

小説なりブログなり、文章を書くのが好きな人であれば、自分で書いた本を出版したいと一度くらい思ったことがあるだろう。

かくいう私も、学生時代はぼんやりとそんなことを考えていたが、就職してからは文章を書く機会も少なくなり、あの頃の気持ちをすっかり忘れてしまっていた。

けれど最近、やはりと思い直す機会があって、……いやこの話はいいか。

 

「ななかさんの印税生活入門」の主人公、連光寺ななかもそのうちの一人だが、彼女の場合は動機が少し歪んでいる。

売れない漫画家の両親に放置気味に育てられたせいで性格がひねくれており、小説で一発当てて両親を見返してやろうと企んでいるのだ。

なぜ漫画でなく小説なのかといえば、ななかに絵の才能がなく、漫画家の大変さは両親を見て良く知っているからである。

野望が大きい割に、冷静に自分の実力を見極めているあたりも可愛らしい。

 

単行本の表紙と帯はまるで新書のようなデザインになっており、デザイナーの木緒なちさんのセンスを感じさせる。

ただし作品の内容はいわゆる「タイトル詐欺」で、ななかは印税収入を稼ぐどころか、1巻の最終話でようやく小説投稿サイトに1編投稿するところまで進む。

ななかは本当に自分の本を出版し、印税を手にすることができるのか。2巻以降の展開に期待したい。

 

書く(描く)人たちへの応援歌

この作品の中には、ライトノベルやWEB小説のテンプレ設定が数多く紹介されている。

異世界から女の子がやってくる、妹に何かをさせればそれっぽくなる、等々。

中には絶対にありえないようなネタもあるが、その突拍子のなさがこの作品の面白さでもあるし、今後そういう設定の作品が登場しないとも限らないのがライトノベルの自由度の高さでもある。

 

両親の職業柄、昔から本に触れる機会が多く読書家であるななかは、「売れる」作品とはどういうものかを常に分析している。

一方、自分がどんな作品を書きたいのかはあまり語らず、この点を友人のまいにも指摘されている。

 

しかし、ななかは決して「売れる」作品をそのまま書こうとはしない。

知識としては持ちつつも、その上で自分にしか書けないものを書こうとしたからこそ、処女作を書き上げるまでに時間がかかったのだ。

残念ながら、その作品はうまくまとめることができずに続き物になってしまったが、0から1を生み出した経験は紛れもなく彼女の執筆人生の一歩になっただろう。

 

ななか以外の登場人物の多くも、何かしらの創作活動に携わっている。

ななかたちに出会うまで、美術室でひとり絵を描き続けていたまい。美術部の顧問であり、かつては自らも美術部員だった永山先生。そして、ななかの両親。

 

創作の喜びも苦しみも知る彼女たちは、小説を書き始めたばかりのななかに時にはアドバイスを送りつつも、基本的には余計な口出しをせずに優しく見守っている。

タイトルの俗っぽさとは裏腹に、創作活動を行う人たちの背中を押してくれる作品、それが「ななかさんの印税生活入門」である。