インタビュー

『織姫ナンバー2』から『恋する小惑星』までのキセキ――Quro先生インタビュー

新しい小惑星を見つける。宇宙飛行士になる。自分だけの地図を作る――。大きな夢に向かって輝き続ける地学系女子(ジオジョ)たちを描いた青春グラフィティ『恋する小惑星(アステロイド)』

私自身、本当にこのマンガが大好きで……。これまでにも、何かにかこつけて(コミックス1巻発売記念として「理系女子マンガ特集」のひとつとして)勝手にレビューを書かせていただきました。

そして先日、作者のQuro先生に直接インタビューをさせていただく機会がありましたので、今回はその模様をご紹介します。

『恋する小惑星』のみならず、その前身となった読み切り『織姫ナンバー2』など、過去の作品についても貴重なエピソードをお伺いしています。ぜひ最後までご覧ください。

マンガ家になるために一念発起して描いた『織姫ナンバー2』

――今回のインタビューでは、Quro先生の過去の読み切り作品から始まり、現在連載されている『恋する小惑星』までのお話を順番にお伺いできればと思っています。よろしくお願いいたします。

Quro先生(以下、Quro):よろしくお願いします。といっても、最初の読み切りを描いたのは3年前なので、かなりうろ覚えですが……。

――まずは、その最初の読み切り作品『織姫ナンバー2』(「まんがタイムきららキャラット」2015年8~9月号ゲスト)から。本作が、Quro先生のマンガ家デビュー作ということになります。


引用:『織姫ナンバー2』(「まんがタイムきららキャラット」2015年8月号157ページ)
ハイスペック高校生の織部姫子。すべてのクラブに仮入部したすえに、最後に残った謎の部活「地学同好会」に入部する。

Quro:なつかしい(笑)。全然意識してなかったんですが、2話に出てくるモブの子、「恋アス」のイノに似てる気がしますね。


引用:『織姫ナンバー2』(「まんがタイムきららキャラット」2015年9月号168ページ)

――『織姫ナンバー2』は、Quro先生が高校時代に所属していた地学部がモデルになっているとお聞きしました。主人公の姫子たちも「地学同好会」に入部しますが、キャラクターの性格や地学同好会の活動内容にも実体験が反映されているのでしょうか?

Quro:「織姫」の内容に関しては、ほぼ創作です。私が入っていた地学部はもっとメンバーが多かったのですが、遊んでばかりで地学らしいことはほとんど何もしていませんでした。

共通点は、部長が部室を私物化していたのと、部員の中に占いが好きな子がいたことくらいでしょうか。

あ、それと、姫子たちが「地学同好会ってダウジングをするところ?」と誤解していたシーンも、私が地学部に入る前に見た夢が元ネタになっています。部室でダウジングの準備をしていて、そんな夢見たなあ……と思い出しながら描きました。


引用:『織姫ナンバー2』(「まんがタイムきららキャラット」2015年8月号159ページ)

――地学オリンピック日本委員会のニューズレター「Chiorin!」に投稿されたエッセイマンガも拝読しました。それによると、「趣味だった漫画を仕事にしたくて一念発起」して『織姫ナンバー2』を持ち込みされたそうですね。

Quro:持ち込みをした一番のきっかけは、旦那さんが転勤族だったことです。結婚後、数年間は研究所の広報室でポスターやWEBサイトを作る仕事をしていたんですが、転勤してしまうと職場に通えなくなる可能性があったので。

そこで、引っ越しをするたびに新しい仕事を探すより、在宅で働けるようになりたいと思うようになりました。マンガ自体は昔から趣味で描いていましたが、結婚するまでは仕事にしようとは考えていませんでした。

――Quro先生は『ひだまりスケッチ』の同人活動なども行われていましたが、『織姫ナンバー2』の持ち込みをしたのがまんがタイムきらら編集部だったのも、その活動が関係しているのでしょうか?

Quro:はい。せっかくチャレンジをするなら、好きな作品が連載されている雑誌にしようと。ダメ元で持ち込みをしたつもりだったので、OKをいただけてびっくりしました。

掲載誌がキャラット(まんがタイムきららキャラット)になったのは私の希望でもありますが、加えて、担当さんに「載せるならキャラットだと思いますか?」と訊かれたことも大きいと思います。

きららの4コマをよく読んでいる旦那さんにも「織姫」を見せたところ、「本誌(まんがタイムきらら)やMAX(まんがタイムきららMAX)よりもキャラットっぽい」と言ってもらったので。「キャラットっぽい」というのが、自分ではよく分からなかったんですが……。

担当編集:Quro先生の絵柄なら、キャラットの誌面に載ったときに新しいかわいさを発揮してくれそうだなと感じたので、キャラットを打診させていただきました。

なんとなくですが、MAXはギャグやノリを重視される読者さんが多いような気がしますし、各誌の色がある中でキャラットが相性的にベストかなぁと。

祖母からもらった本がきっかけのひとつに『屋根裏のイチ子さん』

――続いて、『屋根裏のイチ子さん』(「まんがタイムきららキャラット」2016年10~11月号ゲスト)について。大学の寮に住みつく精霊「イチコさん」が、寮生たちにモテ技術を伝授するというお話でしたが、本作はどのようにして考えられたのでしょうか?


引用:『屋根裏のイチ子さん』(「まんがタイムきららキャラット」2016年10月号195ページ)
大学の寮「一期寮(いちごりょう)」に入寮する主人公たち。そこの屋根裏には、イチコと名乗る精霊(?)が住みついていた……。

Quro:モデルというか元ネタというか、私の祖母の名前が「イチ」なんです。小学生のころ、祖母が恋愛の進め方とか、冠婚葬祭とか、季節の食べ物とか、色々な知識が書かれている古い本をくれたんです。

そこから、おばあちゃんが持っている知識で若者にちょっとずれたことをアドバイスする、みたいな話を思いついて。そのアイデアを練って出てきたのが「イチ子さん」です。

――おばあさんとの思い出も、『屋根裏のイチ子さん』が生まれたきっかけになっているんですね。

Quro:あとは、私も大学時代にひとり暮らしをしていたんですが、それまで服や化粧に興味を持たずに育ってきたので、色々困ることが多くて。

あのころ、イチコさんみたいに色々なアドバイスをしてくれる人がいたらよかったな……という個人的な願望も、作品に盛り込まれています。


引用:『屋根裏のイチ子さん』(「まんがタイムきららキャラット」2016年11月号187ページ)
案外まじめにファッション指導をしてくれるイチコさん。

――ちなみに、『屋根裏のイチ子さん』以外にも持ち込みをした作品はあったのでしょうか?

Quro:キャラットに載った「イチ子さん」はリメイク版で、その前に別のバージョンの「イチ子さん」を持ち込みしました。

前作の「織姫」は評判が良かったと担当さんからお聞きしたので、次は連載できるようにがんばろうと思ったんですが、がんばりどころを間違ってしまったようで……。結局担当さんにも「ぼんやりしている」と言われてしまいました。持ち帰って練り直してできたのが、いまの「イチ子さん」です。

――具体的には、どのような点を修正されたのですか?

Quro第1話の時点で、キャラクターたちの目標を読者に分かってもらえるような構成に直しました。最初に描いた「イチ子さん」は、連載化できたときのことを考えて伏線を張ったり設定を凝りすぎたりして、1話だけを読んだときの印象が薄かったんですね。

最初に目標をバシっと提示した方がいいというのは、担当さんに言われたことで、なるほどなと。このアドバイスが、『恋する小惑星』の第1話を描いたときにも役立っています。

キャラクターたちが夢に向かって突き進む『恋する小惑星』

――『恋する小惑星』の名前が出たところで、そちらについてもお伺いします。きららの作品は、まずゲストとして数話掲載して、読者の反応がよければ連載という流れが一般的ですが、本作は最初から連載扱いでした。連載が決まるまでの経緯をお聞きしてもいいでしょうか?


『恋する小惑星』1巻書影。

Quro:「イチ子さん」を描いたあと、担当さんと連載化に向けた打ち合わせをしたとき、このまま「イチ子さん」を続けるか、前の「織姫」をリメイクするかと訊かれました。それなら、「織姫」で再チャレンジしてみますと。

時間をもらって描き直して、ネームとキャラ設定を担当さんにお見せして、もらった返事が「これなら連載できる」だったんです。ゲスト掲載なしで驚きましたが、とてもありがたい話だったので、精一杯がんばりますとお返事をしていまに至ります。

――それは、担当様から見て、内容的にこれならいけるだろうと思われたから?

担当編集:そうですね。テーマと狙いが明確でしたし、絵もしっかり連載向けに調整してもらっていたので、ゲストで反応を見るまでもないと感じました。まずは1巻、コミックスが出るところまでは続けて、その結果で判断しようと。

――『恋する小惑星』は『織姫ナンバー2』のリメイクだと仰っていましたが、地学部が舞台という部分を除いて、キャラクターや設定はほぼ一新されています。どのような点を意識してリメイクされたのでしょうか?

Quro:「イチ子さん」と同じように、最初に目的をはっきりさせるのがまず一点。「恋アス」だと、みらとあおのふたりが小惑星を見つけて名前をつけることですね。

最初は超新星とか、新しい星を探すというのを考えていたんですが、色々調べているうちに、小惑星なら見つけた人が名前をつけられると知って、それを目標にするといいんじゃないかなと思いました。


引用:『恋する小惑星』1巻15ページ
「新しい小惑星を見つけて、『アオ』の名前をつける」という、みらとあおの夢が明示された第1話。尊い。

「織姫」をそのまま描いていたら、たぶん全体的にぼやっとした作品になっていたと思います。目標がはっきりするとタイトルもピタッとはまりますし、何より終着地点が見えているので自分が安心して描けますね。

もう一点は、キャラクターのバリエーションを増やすことです。私自身、もともと天文に興味があったので、そちらのキャラをベースに考えていましたが、地学部を題材にするなら地質が好きなキャラも盛り込むとお話が広がりそうだなと。


引用:『恋する小惑星』1巻2~3ページ
みらが入ろうと思っていた「天文部」は、「地質研究会」と合併して「地学部」になっていた。

天文班と地質班のキャラをそれぞれ作って、誰にどんなことをさせるか、どんな夢を持たせるかもあらかじめリストアップして、「恋アス」をスタートさせました。

――「宇宙飛行士になる」というモンロー先輩の夢や、「地図を作る」というイノ先輩の夢も、最初からすでに決まっていたのですか?

Quro:はい。ただ、夢を持つきっかけになったエピソードなんかは描いているうちに別のものが浮かんでくることもあって、最初に考えていたものとは少し違ったりもしています。


引用:『恋する小惑星』(「まんがタイムきららキャラット」2018年9月号86ページ)
モンロー先輩こと、森野真理。宇宙飛行士になるという彼女の夢のきっかけは、祖母の言葉だった。

性格的に自分に近いのは桜、読者人気が高いのはイノ

――作中に登場する地学ネタは、どのように調べられているのでしょうか?

Quro:本を読んだり、WEBサイトを見たり、博物館に行ったりして情報収集しています。天文は昔から漠然と好きだったんですが、詳しくはないので、いまも調べながら描いている感じですね。

地質に関しては、むしろ旦那さんの方が詳しいので、教えてもらったり、一緒に資料探しを手伝ってもらったりしています。

――『恋する小惑星』を読んで、作中に登場する施設に実際に行ってみたという読者の方もいるそうですね。そういった反応はやはりうれしいですか?

Quro:もちろん、とってもうれしいです! 夏合宿の回でみらたちが見学した筑波宇宙センター地質標本館に行ったと、Twitterに書いてくださる方が結構いらっしゃって。たまにエゴサーチして見させてもらっています。

地学をテーマにしたマンガを描いているからかもしれませんが、作中の舞台に行かれたり、細かい地学ネタにも気づいていただいたり、行動力や知識欲が旺盛な方が多い気がしますね。下手すると、私より読者のほうが詳しいんじゃないかと……(笑)。

――合宿回といえば、桜先輩の「自分の夢を遠慮なんてしないでよね」というセリフが特に印象に残っています。「夢」が、本作のテーマになっているのでしょうか?

Quro:はい。「恋アス」では大きなテーマをふたつ考えていて、そのうちのひとつが「夢」です。私もマンガを連載するという夢を叶えられたので、キャラクターたちの夢も叶えさせてあげたいと思いながら描いています。


引用:『恋する小惑星』1巻114ページ
夢をまだ見つけられていない桜先輩(桜井美景)の、彼女なりの激励。

もうひとつのテーマは……、作品が完結したときに読者の方に感じ取ってもらえたらいいなと思っているので、それはまだ内緒で。

――キャラクターについてもお伺いしたいのですが、Quro先生ご自身に一番近いと思うキャラクターは誰でしょうか?

Quro:ひとり挙げるなら、でしょうか。勝ち気な性格で、人に強く言っちゃうところなんか似ているのかなと。なので描きやすくて、ちょいちょい桜の出番が増えてしまいます。ツッコミ役も彼女だけなので……。

あとは、みらの性格や言動も割と自分に近いかもしれません。みらと桜のやりとりを描いていると、私の頭の中のふざけている方とまじめな方が会話しているような気分になりますね。


引用:『恋する小惑星』1巻42ページ
お調子者のみらと、しっかり者の桜先輩の会話も、「恋アス」の名物。

――読者からの人気が高いのは、どのキャラクターでしょうか? 自分はイノ先輩が好きです。いつもはあまり先輩っぽくないんですけど、しっかりした一面もあったりして……。

Quro:ありがとうございます。イノが好きと言ってくださる方はすごく多いですね。第8話の「探検イノの地図」が好評だったそうで驚きました。

――意外でしたか?

Quro:あのときはキャラットに2話掲載されて、前半がみらのお姉ちゃんが初登場する話、後半がイノの話だったんです。だから新キャラの方が目立つかなと思っていたんですが、みなさんの反応は逆で……(笑)。


引用:『恋する小惑星』1巻69ページ
イノ先輩こと、猪瀬舞。物語の途中で、彼女もまた自分だけの「夢」を見つける。

だけど読み返してみると、たしかにあの回はイノというキャラの色々な面を1話の中で出せていたのかなと。なので、反応がいただけたのはありがたかったと思います。

『恋する小惑星』をきっかけに、地学にも興味を持っていただけたら

――子どものころに読んでいたマンガや、影響を受けたマンガがあれば教えてください。

Quro夜麻みゆき先生のファンタジーマンガはよく読んでいました。作品数は多いわけではないのですが、どれもすごく読み込んだ記憶があります。

――子どものころから、マンガ家になりたいという想いはあったのでしょうか?

Quro:小学生のころが一番マンガ家に憧れていて、天文も好きだったので、「将来は天文マンガ家になる!」と言っていた気がします。いま思うと「天文マンガ家」って何だ……と思いますが(笑)。奇しくもいま、そういうマンガが描けていますし、昔の夢が叶えられたのかもしれません。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。最後に、読者の方にメッセージをお願いいたします。

Quro:取材の際に高校の先生にお話を伺ったんですが、地学は比較的マイナーな科目だそうで……、選択科目で選ぶ生徒さんが少ないそうです。学習マンガとして描いているわけではありませんが、『恋する小惑星』をきっかけに、地学に興味を持ってくださる方が増えたらとは思っています。

また、私自身が地学に関しては素人なので、キャラも初心者目線で描いているところが多いです。小惑星を見つけるなんて大きな夢を叶えられるのか? と感じられるかもしれませんが、みらたちがゆっくり成長していく姿を見守っていただければうれしいです。