マンガ

ありがとう、ミラク。~『まんがタイムきららミラク』休刊によせて~

ご存知の方も多いと思いますが、『まんがタイムきららミラク』の休刊が発表されました

一部の作品は、『まんがタイムきらら』『まんがタイムきららキャラット』の姉妹誌、または『ミラクWeb』やニコニコ静画の『きららベース』に移籍して連載を継続するようです。

そのため、ミラクというブランドが消えるわけではなく、単にオンラインに移行しただけとも考えられます。

ただ、きららレーベルの雑誌の中でも、ミラクにはお気に入りの作品が多かったため、今回のニュースには「残念」という感想しか出てきません。

(毎年開催されている「4コマオブザイヤー」でも、投票できる5作品のひとつを「ミラク枠」に当てていました)

この記事では、ミラクとはどんな4コマ誌だったのか、ミラクは4コマ界に何を残したのか、あらためて残しておきたいと思います。

太く短い4コマ誌

『まんがタイムきららミラク』は、『まんがタイムきらら』の増刊号として、2011年3月に創刊されました。

2012年3月号からは、『まんがタイムきらら』『まんがタイムきららMAX』『まんがタイムきららキャラット』『まんがタイムきららフォワード』に続く、きららレーベル5番目の雑誌として独立創刊しています。

また、ミラクからは『桜Trick』『幸腹グラフィティ』『城下町のダンデライオン』『うらら迷路帖』の4作品がテレビアニメ化されています。

これは、姉妹誌と比べても遜色のない作品数です。

最も新しく創刊したにもかかわらず、きららレーベルで最初に休刊する雑誌になってしまいましたが、6年という期間の中でも、ミラクには質の高い作品が多かったと言えるでしょう。

※『まんがタイムきららカリノ』と『まんがタイムきらら☆マギカ』はアンソロジー雑誌の側面が強いため、ここでは数に含めていません。

もっと自由に、4コマを。

『まんがタイムきららミラク』は、「もっと自由に、4コマを。」というキャッチフレーズを掲げていました。

きららレーベルに掲載されている4コマは、いわゆる「萌え4コマ」です。

萌え4コマ自体、4コマの長い歴史の中では比較的新しいジャンルですが、ミラクが生まれた2011年ごろは、きららレーベルに若干のマンネリ感が漂っていたような気がします。

『まんがタイムきらら』創刊当初こそ、SFやファンタジー要素を取り入れた作品があったものの、次第に現代日本を舞台にした学園4コマが雑誌の大半を占めるようになっていったのです。

そうした閉塞感を打ち破るため、ミラクではいくつかの新しい試みが行われました。

「4コマ」でも「萌え4コマ」でもない、斬新な作品

ミラクで作品を描いていた方は、ほぼ全員がマンガ初挑戦でした。

「4コマ」ではなく、「マンガ」初挑戦というところがポイントです。

もちろん、まったくの素人ではなく、ライトノベルの挿絵を担当しているイラストレーターや、pixivなどでイラストを投稿している方を集めて4コマを描いてもらったのです。

興味深いエピソードとして、現在『うらら迷路帖』を連載しているはりかもさんは、ミラクで『夜森の国のソラニ』を描き始める前に「漫画を12ページ描くのではなく絵本のカットを92コマ描くつもりで作画してください」と言われたそうです。

おそらく、はりかもさん以外の方も似たようなことを言われたのではないでしょうか。

イラストをメインに描いていた人が、いきなりコマ割りも考えてマンガを描くのは難しい。1ページを均等に8分割したフォーマットはそのために用意されたもので、「4コマを描いてください」と依頼された人はひとりもいなかったと思われます。

そうして描かれた作品は、各作者のセンスが存分に発揮された独創的なものになりました。

  • 迫力のアクションシーンがあったり(『Good night! Angel』)
  • ジュブナイル小説のようなストーリーが展開されたり(『となりの魔法少女』)
  • ひたすらシュールなギャグが繰り返されたり(『月曜日の空飛ぶオレンジ。』)
  • 圧倒的に可愛い女の子たちをとにかく描き続けたり(『スイートマジックシンドローム』)

作者個人で、新しい4コマの表現方法を模索した例はあったものの(4224さんの『もっかい!』など)、雑誌全体でこのような取り組みが行なわれたのは、4コマ誌以外でもほとんどなかったのではないでしょうか。

ファミリー4コマも萌え4コマもある程度の数を読んで、「自分って4コマ上級者かな?」と思いかけていた当時の私は、こんな4コマもあるのかとビックリしたものです。

ただ、ミラクには、「打ち切り」ではなく「休載」という形で姿を消した作品が姉妹誌と比べても目立ちます。

ただでさえマンガ未経験の人が「新しい4コマ」を描くという難しさゆえ、人気はあったけれど途中で描けなくなってしまう人も多かったのかもしれません。

ページ数の増加

ミラクの特徴として、1作品あたりのページ数の多さが挙げられます。

4コマのページ数は、一般的に4ページから6ページ。きららなどの萌え4コマでも、8ページの作品がほとんどでした。

一方、ミラクの4コマは、おおむね10ページから12ページです。

通常のマンガに慣れている方は「たった12ページか」と思われるかもしれませんが、1.5倍になる(8ページ→12ページ)と考えればかなりの増量ですよね。

このページ数をどう使うかは、すべて作者に委ねられています。

ストーリー形式の4コマであれば、これだけあればかなりストーリーを進められるでしょう。

今までなら何話かに分けたり、あるいは1話におさめるために情報を削らなければいけなかったのを、情報量を減らさずに1話でまとめられるようになります。

日常系の4コマでも、ひとつのシーンを丁寧に描いたり、キャラクターの掘り下げをしやすくなったりなど、ページ数が多いことによる恩恵は受けられるはずです。

また、出版社側の視点で考えると、早く単行本が出せるというメリットもあるのではないでしょうか。

1話8ページの4コマだと、単行本1冊ぶんのストックがたまるのに13ヵ月かかります。

これが1話10~12ページになると、だいたい10ヵ月前後で単行本が出せます。

アニメ化もされた『桜Trick』は全8巻、『幸腹グラフィティ』は全7巻と、連載期間に対して巻数が多いのは、決して気のせいではありません。

ミラクが残したもの

こうしたミラクの取り組みは、他の4コマ誌にも影響を与えました。

きらら内部でも、ページ数の多い作品が掲載されるようになったり、ファンタジー要素の強い作品(『オリーブ! Believe,”Olive”?』、『魔法少女のカレイなる余生』、『まちカドまぞく』など)が増えたりという変化が見受けられます。

ただ、それ以上にミラクの影響を受けていると思われるのが、KADOKAWAグループの4コマ誌です。

ミラクと同時期に創刊された『4コマnanoエース』は2年で休刊してしまいましたが、その後『コミック電撃だいおうじ』『コミックキューン』が創刊され、この2誌は今も刊行が続いています。

特に『コミックキューン』は、1話あたり10ページの作品があることや、「女の子のかわいさ」というひとつのコンセプトを追求した雑誌づくりなど、ミラクとの類似点を多く見つけられます。

それどころか、キューンはワイド4コマ(1ページに横長の4コマを1本掲載する)を積極的に取り入れるなど、ミラクでも行わなかった新しい4コマの形に挑戦しています。

(竹書房にもワイド4コマは増えてきていますが、芳文社はこの点に関しては保守的な気がします)

「萌え4コマを読みたい(描きたい)ならきららかぱれっと」という時期が長く続いていたので、キューンという新しい選択肢が生まれたのは、4コマ界全体の活性化にとっては喜ばしいことだったと思います。

繰り返しになりますが、ミラクの休刊は本当に残念です。

他誌に移籍して連載を続ける作品はともかく、休刊と同時(あるいはその少し前)に最終回を迎えた作品の中には駆け足気味に終わってしまったものもあるので、マンガで生計を立てている作家さんにとっては不本意だったかもしれません。

ただ、私個人としては、もちろん残念ではあるものの、それほど哀しいとは思っていません。

むしろ、ミラク創刊当初の目的(4コマの多様性の拡大)は達成した、あとはきららの姉妹誌や、キューンなど他社の4コマ誌が志を継いでくれる。

その土壌が整ったからこそ、ミラクは安心して休むことができるようになったのではないかと考えています。