「ヤンデレ」とは、誰かを愛しすぎるあまり精神的に病んでしまったキャラクターのことを指します。「School Days」の桂言葉が有名ですね。
4コマにもヤンデレのキャラクターはいますが、数はあまり多くありません。
気軽に読めることが4コマでは重要なので、読者の心にもダメージを与えるようなキャラクターは出しにくいのだと思います。
逆に、4コマでそのようなキャラクターが登場したときの衝撃は計り知れません。
ここでは、その中でも特に印象に残った4コマのヤンデレヒロインをご紹介します。
正確には「ヤンデレ」ではないキャラクターもいるかも知れませんが、私が「この子はヤンデレだ」と感じたキャラクターを挙げることにいたします。
日吉沙咲野(「チェリーブロッサム!」 – 茶菓山しん太)
主人公、大咲の妹である沙咲野は、極度のブラコンです。
初登場時は目にハイライトがなく、大咲が所属する園芸部のゆうや火文に敵意をあらわにし、ヤンデレと聞いて想像する要素を兼ね揃えていました。
そんな沙咲野も、時が経つにつれて少しずつ性格が丸くなっていきます。
大咲を監視する目的があるとはいえ、園芸部が主催する季節のイベントには必ず参加し、ゆうや火文たちと交流を深めます。
高校に進学して自分も園芸部に入部してからは、生意気だけど憎めない後輩キャラの立ち位置に収まりました。
沙咲野が同学年のクラスメイトと会話をしているシーンは、作品内でほとんど描かれませんでした。
大咲もそうであるように、人付き合いがあまり得意ではないのかも知れません。
ヤンデレと評されるキャラクターは、他者と関わる機会が少ないため、一度好きになった相手を盲目的に愛してしまうのだと言われています。
園芸部の活動を通じて多くの出会いを経験し、自分以上に兄を愛してくれる人がいると知った沙咲野が「ヤンデレ」ではなくなったのは、ある意味で当然なのでしょう。
皇桃乃(「とらぶるクリック!!」 – 門瀬粗)
触っただけであらゆる電化製品を壊してしまうという体質を持つ杏珠は、その才能(?)を見込まれてPC部に勧誘されます。
そのPC部で副部長を務めているのが、桃乃です。
トラブルやアクシデントが好きという腹黒い一面もありますが、いつも笑顔を絶やさず、杏珠たち後輩にも優しく接している良い先輩キャラです。
桃乃が突如ヤンデレ化したのは、3巻に収録されている温泉合宿回でした。
この合宿を通じて、部長でもある姉、藤乃とより親密になれると桃乃は期待していました。
しかし、藤乃は旅館に着くや杏珠たちと館内探索に出かけてしまい、なかなか二人きりになれません。
自分だけが写っていない合宿の記念写真を見たことにきっかけに、とうとう桃乃は「暴走」します。
姉に構ってもらえない寂しさが極限に達すると、数年に一度この状態になってしまうのだそうです。
普段の桃乃からは想像できない、瞳孔を大きく開き狂気に満ちたその表情は、初めて単行本で読んだとき思わず背筋が凍りました。
桃乃が暴走したのは、後にも先にもこの温泉合宿回だけです。
だからこそ、そのときの印象が今も鮮明に残っているのだと思います。
鼓堂織羽(「くらまちゃんにグイってしたらピシャってされた!」 – ストロマ)
織羽と主人公のくらまは、小学生の頃いつも二人で遊んでいました。
あるとき、くらまの忠告を無視して危険な場所に立ち入った織羽は、顔に大怪我を負ってしまいます。
もちろんくらまは悪くありませんが、織羽の母親に責任を追及されたことで心を閉ざしてしまい、中学進学を機に織羽とも疎遠になります。
くらまにトラウマを植え付け、右目の傷を髪で大胆に隠す織羽は、ヤンデレではないとしても病的な雰囲気を感じさせるキャラクターでした。
その彼女もまたヤンデレだと分かったのは、最終回の直前です。
夏休みのキャンプ旅行をきっかけに、お互いの想いを打ち明けて織羽とくらまはようやく仲直りをします。
感動的なシーン、……のはずでしたが、そこで織羽はくらまの唇を奪います。
織羽はくらまを友達としてではなく、実は恋愛対象として愛していたのです。
せっかく和解できたにもかかわらず、くらまは別の意味で織羽と距離を取るようになってしまうのでした。
元々はぱれっとonlineで連載されていて、雑誌よりも制約が少なかったからなのか、この作品には読んでいて胸が締め付けられるような辛い描写が多いです。
しかし、2巻のあとがきによるとこれでも「本来想定していた内容よりもめっちゃマイルド」なのだそうです。
もし想定通りの内容で描かれていたら、織羽はどんなキャラクターになっていたのでしょうか。
読んでみたくもあり、少し怖くもあります。
山田ちゃん(「妹はいいものだ」 – 内村かなめ)
今回紹介する中で、おそらく最もヤンデレらしいキャラクターではないでしょうか。
山田ちゃんはヒロイン、はるなのクラスメイトで、お兄ちゃんを溺愛している妹です。
家ではお兄ちゃんにべったり甘えていて、将来はお兄ちゃんのお嫁さんになるのだと本気で考えています。
普段は笑顔の可愛い女の子ですが、別の女子がお兄ちゃんに近付いたり、自分とお兄ちゃんが一緒にいるのを邪魔されたりすると、途端に表情をこわばらせます。
たとえそれが、友達のはるなであっても。
山田ちゃんとはるなは、どちらも妹ながら対称的なキャラクターとして描かれています。
山田ちゃんはストレートにお兄ちゃんが大好き、はるなはそっけない態度を取りつつも内心はお兄ちゃんが大好き、という具合です。
作者の内村かなめさんは、山田ちゃんは犬系、はるなは猫系と表現しています。
「妹」要素を期待してこの作品を読んだ人には、まっすぐお兄ちゃんに好意を向けてくれる山田ちゃんの方が人気なのかも知れません。
しかし、メインヒロインに据えるには山田ちゃんのキャラはあまりにも刺激が強すぎます。かといって、はるな一人だけでは少し物足りない。
山田ちゃんとはるな。二人の妹がいてこそ、この作品は完成するのです。
海乃瑠璃(「さくらマイマイ」 – おしおしお)
最後は、コミックキューンで連載中のこの作品から。
瑠璃は、ヒロインの櫻子が生活する女子寮で大家代理を務めている女の子です。
背が低くて小動物のように愛らしく、櫻子や他の寮生たちをいつも気にかけている、虫の一匹も殺さないような優しい子でした。……1巻までは。
2巻の途中から、瑠璃のキャラクターがおかしくなっていきます。
櫻子が誰かに告白されたのではないかと思うや錯乱し、女子生徒が櫻子に近付いただけで取り乱すようになります。
特に、ボーイッシュな容姿の菖蒲(あやめ)に対しては敵意――というより殺意を隠そうともしません。
可愛かったあの瑠璃がおもちゃ(?)の銃を容赦なく菖蒲に突きつけるその姿は、恐怖を通りこして興奮すら覚えます。
作者のおしおしおさんは、過去にまんがタイムきららで「神様とクインテット」という作品を連載していました。
ハイテンションなギャグが特徴だったそちらに比べて、「さくらマイマイ」はどこかおとなしい印象がありました。
しかし、2巻に入ってからはブレーキが壊れ始めます。その象徴が、瑠璃のヤンデレ化でしょう。
1巻と2巻で作風がだいぶ変わるため戸惑う方もいるかも知れませんが、私は2巻の雰囲気が好みです。