マンガ

きらら史上最凶のヤンデレヒロイン『サジちゃんの病み日記』アサギユメ

女の子は恋をするとかわいくなる、とはよく言ったもの。

その理屈でいくと、彼女もかわいいということになるが……。いや、かわいいと思うよ、素材は。


引用:『サジちゃんの病み日記』(試し読みページ)

アサギユメさんが「まんがタイムきららMAX」で連載中の『サジちゃんの病み日記』は、ひとつ上の先輩に異常なまでの愛情を向ける女の子の暴走ぶりを描いた、ヤンデレ百合4コマ。

第1話がヒロインの自傷行為シーンで始まるなど、きららMAX誌上でもひときわ異彩を放つ本作。明日9月27日に、単行本1巻が発売される。

完全にアウト。だけど愛なら仕方ない

「サジちゃん」こと月宮沙慈(つきみや・さじ)には、好きな女の子がいた。同じ高校に通う2年生の、江戸川ひかりだ。

幼稚園のときは家が隣同士だったものの、小学校に上がるころにひかりが遠くに引っ越してしまい、ふたりは離れ離れに。高校生になって、ようやく再会できた。

昔のように、またひかりと仲良くしたい。けれど、笑顔で声をかけるなんて、人付き合いが苦手なサジちゃんにはあまりにもハードルが高い。そこで一計を案じる。

ひかりと一緒に登下校がしたいなら、こっそり後ろからついていけばいい。


引用:『サジちゃんの病み日記』(「まんがタイムきららMAX」2017年7月号176ページ)
※ストーキングです。

ひかりの顔を間近で見たいなら、こっそり写真を撮ればいい。


引用:『サジちゃんの病み日記』(「まんがタイムきららMAX」2017年7月号177ページ)
※盗撮です。

ひかりの部屋に入りたいなら、こっそり忍び込めばいい。


引用:『サジちゃんの病み日記』(「まんがタイムきららMAX」2018年1月号60ページ)
※不法侵入です。

どう考えてもバレバレだが、鈍感なひかりは華麗にスルー。逆に、ひかりの親友・橋口(はしぐち)メロが先にサジちゃんの存在に気づき、やたらとちょっかいをかけるようになる。

わざとひかりとベタベタしてみたり、ストーカーしていることをひかりに言いつけると脅してみたり。メロにいじられて泣き出してしまうサジちゃんは、まるで小学生女児のようで実に愛らしい。


引用:『サジちゃんの病み日記』(「まんがタイムきららMAX」2017年12月号52ページ)

読者の被虐心を呼び覚ますヤンデレっぷりと、反対に加虐心を煽り立てる幼さ。サジちゃんが持つ両面性は、シリアスパートとギャグパートの振り幅が大きい本作の魅力そのものでもある。

サジちゃんもそのうち丸くなる。そんなふうに考えていた時期が私にもありました

強烈な個性を引っさげて登場したキャラクターが、次第にまともになっていくというのは、マンガの世界ではよくあること。記号的だったキャラクターが「人間らしくなる」と言ってもいい。

サジちゃんも物語の中盤あたりから、ひかりの妹・ぺぐの看病をしてあげたり、メロの恥ずかしい趣味(コスプレ生配信)を知って一転攻勢に出たりするなど、人間味あふれる一面を見せるようになる。

このまま少しずつヤンデレ成分が薄れていって、普通の女の子に変わっていくのだろう。……そんなふうに考えていた時期が私にもありました。


引用:『サジちゃんの病み日記』(「まんがタイムきららMAX」2018年5月号72ページ)

メロをうまく利用して、いつものようにひかりの盗撮を企てるサジちゃん。だが、逆にふたりの仲の良さを見せつけられる結果となり、ひとり悶絶する。

こうした展開は本作では割とお約束だが、次のエピソードから、サジちゃんは今までと違う不穏な動きをし始めるように……。

真人間になるどころか、終盤に近づくにつれてどす黒さが増していく。そしてついにサジちゃんは、人としても、きららのヒロインとしても一線を越えてしまう。この惨劇の詳細と結末は、ぜひ単行本で確かめてほしい。

誰がサジちゃんを責められるだろうか?

盗撮に盗聴、不法侵入に殺人未遂。言うまでもなく、サジちゃんのやっていることは立派な犯罪である。

中でも終盤に起こした事件は、とてもギャグで済まされるレベルではない。マンガとはいえやりすぎではないか、と感じる人もいるだろう。

だが、少なくとも私は、サジちゃんを責める気にはなれない。なぜなら、サジちゃんと同じ境遇に立たされて、絶対に心を病まないと断言できる人なんて、ひとりもいないと思うからだ。


引用:『サジちゃんの病み日記』(「まんがタイムきららMAX」2017年12月号49ページ)

作中でたびたび衝突する、メロとサジちゃん。見た目も価値観もまるで違うふたりだが、初めての友達がひかりだったという共通点を持つ。

気難しい性格だった小学生時代のメロは、誰に対しても分け隔てなく接するひかりに出会ったことで、他の人たちとも打ち解けられるようになった。

一方サジちゃんは、ひかりとのつながりに固執するあまり、ひかりがいなくなってからも彼女の姿だけを追い続け、それ以外の人との関わりを絶ってしまう。

もし、メロがサジちゃんと同じ立場だったら――ひかりと仲良くなった直後に、ひかりが目の前から消えてしまっていたら――、今みたいに笑えていただろうか? 誰だって、サジちゃんのようになってしまう可能性はあるのだ。


引用:『サジちゃんの病み日記』(「まんがタイムきららMAX」2018年8月号214ページ)
幼稚園時代のサジちゃん。もどして。

あまりにも攻めすぎた設定と、終盤のドラマチックな展開から、もしかして1巻で完結してしまうのではないかと心配していた。しかし、単行本に巻数表記があることからも分かる通り、現在も連載は続いている。

きららの歴史上、最も危なっかしく、最も純粋なヒロインであるサジちゃん。彼女の魅力に、誰もが病みつきになるに違いない。