マンガ

全ライターに刺さるお仕事マンガ、その名も『ライター×ライター』(原作:深見真、作画:コト)

「まんがタイムきららフォワード」は、女の子と「何か」を組み合わせた作品を生み出すのがうまい雑誌だと思う。

「キャンプ」と組み合わせた、『ゆるキャン△』。

「和楽器」と組み合わせた、『なでしこドレミソラ』。

「ブレイクダンス」と組み合わせた、『ブレイキンガールズ!』、エトセトラ。


引用:『ライター×ライター』(「まんがタイムきららフォワード」2017年12月号6~7ページ)
脚本家、プロデューサー、原作者、監督、みんな美少女。言うなればアニメ制作版『NEW GAME!』(男性キャラもいます)

そして、連載が始まったとき「そことは組み合わせてほしくなかった……」と個人的に思ってしまった作品の単行本が、6月12日に発売される。

原作・深見真さん、作画・コトさんで送る、『ライター×ライター』。何をテーマにしているかは、言わずもがな。

ただし、雑誌やWEBサイトの記事を書く方ではなく、アニメ脚本家としての「ライター」だ。

地味だけどアニメには欠かせない、脚本家のお仕事

橋本カエデ、19歳。

高校在学中に書いた脚本が賞を受賞し、劇場版アニメとして上映されることに。

彼女には、光り輝く未来が待っている――はずだった。


引用:『ライター×ライター』(「まんがタイムきららフォワード」2017年12月号13ページ)
カエデ本人はもちろん、監督も面白いと思ったはず。だからといって、視聴者も面白いと思ってくれるとは限らない。

蓋を開けてみると、そのアニメは大コケ。つまらなすぎるとネット上で叩かれまくる。

デビューに失敗したカエデに脚本家としての仕事はほとんどなく、アルバイトで時間を売る日々。

ライターではなくても、本当にやりたいことができずにくすぶっている人には、彼女の心境が痛いほど分かるのではないだろうか。

 

そして、カエデ以外にも悩みを抱える女性がひとり。

十文字ユキカ。若くして何本もの作品に携わってきた新進気鋭の脚本家だが、いくつかの出来事が重なり、アニメという仕事へのモチベーションを失いかけていた。

素質はあるけれど機会に恵まれないカエデと、実力はあるけれど熱意に欠けるユキカ。

以前からふたりを気にかけていたプロデューサーの若本サヤカは、カエデをユキカの弟子兼アシスタントにすることを計画する。


引用:『ライター×ライター』(「まんがタイムきららフォワード」2018年2月号207ページ)
アニメ制作に関する豆知識も豊富。声優や監督だけでなく、脚本家に注目してアニメを観るのも楽しいだろう。

多くの人が関わるアニメ制作の仕事の中で、本作は「脚本」の裏側を描く。

収録スタジオで声優たちが迫真の演技を披露するわけでもなければ、納期に追われる作画スタッフが阿鼻叫喚の地獄絵図を繰り広げるわけでもない。

無味乾燥な会議室で、淡々と本読み(脚本会議)が行われるだけ。ビジュアル的には、はっきり言って地味だ。

とはいえ、そこはきららフォワード。主要キャラクターを全員女性にし、画力に定評があるコトさんを作画担当に据えることで、華やかさを演出している。

「ライター」である前に、「ファン」でありたい

カエデとユキカのもとに、ライトノベル原作のアニメの仕事が舞い込んでくる。

ところが、原作者の児玉サリは、カエデの書いた脚本にだけ執拗にリテイクを繰り返し、遅々として本読みが進まない。

それは、「脚本家」という職業自体へのサリの不信も一因だった。彼女の作品は過去にもアニメ化しているが、とある脚本家によってストーリーが大幅に改悪されてしまい、原作の売り上げまで影響を及ぼしたという。


引用:『ライター×ライター』(「まんがタイムきららフォワード」2018年4月号210ページ)
マンガ、アニメ、ゲーム、大量の娯楽があふれる現代、「つまらないアニメ」の原作をわざわざ読む人はいない。

こうした問題は、アニメ業界に限らず、「ライター」が関わる仕事すべてに起こりうる。

専門家の監修を受けたあと、SEO対策と称してまったく違う内容に書き換えられる医療記事。

ライターの自己プロデュースに躍起になっていて、取材対象者の魅力がまるで伝わってこないインタビュー記事。

いずれも、関係者への敬意や、何のために・誰のために書くのかという目的意識があれば、防げたはずだ。


引用:『ライター×ライター』(「まんがタイムきららフォワード」2018年1月号164ページ)
伝えたかった言葉が、届けたい人に届いたとき、ライターの仕事は初めて完成する。

デビュー作が大コケしたとはいえ、カエデは脚本を書く上での最低限のスキルは備えている。それ以上に、彼女には「受信する」才能がある。

原作の一番の見せ場はどこか。脚本家は、このセリフにどんな意味を込めたのか。書き手のメッセージを受け取ることができる人は、きっと届けることもできる。

もしかすると、脚本賞に応募するための作品だったこと――審査員のために書くのか、視聴者のために書くのかが曖昧だったこと――も、デビュー作が失敗した原因だったのかもしれない。

 

自信を持って送り出した作品の酷評、原作者との衝突。多くの脚本家が経験しただろう苦難を乗り越えて、カエデは成長していく。

いつかもう一度、オリジナルアニメの脚本に挑戦するのか。それとも、ユキカの後を追ってシリーズ構成の道に進むのか。

アニメ制作の舞台裏を知りたい人はもちろん。文章でも、絵でも、映像でも、誰かに何かを伝えようとしたことがある人に、ぜひ読んでほしい。